ナパヴァレーのぶどうのライフサイクル

ナパヴァレーのぶどうのライフサイクル

ぶどうはどのような過程を経て、品質で高い評価を受けるナパヴァレーのワインになるのでしょうか。ぶどうがワインになるまでの過程を知るために、ぶどうのライフサイクルを以下にご紹介します。

 


冬の剪定

ナパヴァレーでは、カリフォルニアの同規模のどのワイン産地よりも多くのワイン用ぶどう品種を栽培しています。そのため冬に行う剪定は、非常に長い期間を費やします。剪定は高い技術力を要する作業で、樹の枝を特定の方向に誘導するために行われ、明確な目的があります。ナパヴァレーでは、大半の剪定作業は、年間雇用のぶどう畑作業者の手により行われます。ナパヴァレーで剪定に関する判断がどれほど緻密に行われるかを示す例をご紹介しましょう。ワインの造り手はメルローの剪定作業を例年よりも丸々2週間も遅らせることもあります。成熟の遅いカベルネ・ソーヴィニヨンと生育の段階を合わせるためですが、これはメルローとのブレンディングを考えてのことです。

 

萌芽

休眠状態にあったぶどう畑で最初の若い芽が顔を出し始め、ぶどう畑は成長の季節を迎えます。萌芽期の到来です。ぶどうの品種と畑の場所により、ナパヴァレーの萌芽は2か月以上にわたって続きます。それほど多様なぶどう栽培が行なわれているのであれば、ナパヴァレーはさぞ広大な土地を擁しているのだろうと思われるかもしれませんが、実際には南北50キロ、幅は一番広い地点でも8キロしかない小さな地域です。ナパヴァレーでぶどう栽培が占める土地の割合はたったの9%で、ぶどう畑の面積はボルドーの8分の1しかありません。

 

 

開花

およそ1か月間成長を続けたぶどうの樹には、小さな花がびっしりとついた花の房がなります。この花の一つ一つがぶどうの実に成長する可能性を持っています。この発育段階のぶどうは、霜と風に注意が必要です。霜の被害に遭う危険がある場合、ヴィントナー(ワイン生産者)とグロワー(栽培者)は大きなファンを回して冷たい空気を循環させたり、散水してぶどうの樹を氷の保護膜で覆ったり、ヒーターを使用してぶどう畑の気温を上げたりするなど、若くて弱い枝を凍霜害から守るためにさまざまな対策を講じます。ナパヴァレーのぶどう栽培は、海抜0メートルから900メートルの地点で行なわれています。サンパブロ湾の影響を受けて比較的涼しい南カーネロス地区と、北部カリストガ・サブアペレーションでは気温に5度以上の差が生じることもあります。そのためマイクロクライメット(微小気候)が異なることで、開花時期には2か月間以上の開きがあります。

 

結実

受粉を終えたぶどうの花から小さな花びらが落ちると、茎の先からは小さな緑の球がのぞき始めます。この小さなぶどうの粒が成長すると、房はあの見覚えのある形に成長していきます。この時期、まだ霜には注意が必要です。ヴィントナーたちは一瞬たりとも気を抜かずに天気に気を配ります。ひとたび実が付けば、果実はナパヴァレーのからっとした地中海性気候の影響を受けて熟し始めます。この独特の気候は地球表面の2%でしか見られず、ナバパレーのワインの均一な品質に一役買っています。

 

 

樹形管理

果実の生産量を確保し、実をしっかりと熟させるためには、春の間に勢い良く伸びた枝をある時点で手入れする必要があります。複雑な工程であるこの樹形管理にはさまざまな決断と作業を伴い、葉摘み、樹勢管理、摘芽、新梢の誘引などが行なわれます。目的は、一房ごとの周囲の日かげ、日なた、風通しを完璧なバランスで整えて、果実がよく熟れるようにすることです。ナパヴァレーで働くぶどう畑の作業者たちは、ぶどう畑の木と木の間の同じ道を1年で20回以上通ることも珍しくありません。職人技が光るナパヴァレーのぶどう栽培です。

 

 

摘房(てきぼう)

「グリーン・ハーベスティング(青い実の収穫)」とも呼ばれる摘房は、不完全な房や実が均一に成長しそうにない房を、実が熟す前に取り除く作業です。こうした手入れを行うことで、ナパヴァレーの1エーカーあたりのぶどうの収穫量は意図的に、他のカリフォルニアのワイン生産地の半分にされています。ナパヴァレーのぶどう1トンあたりの平均価格がカリフォルニアのおよそ5倍する理由の一つでもあります。

 

 

 

ベレーゾン(色付き)

どのぶどう品種も、1年におよぶ旅は緑色からスタートします。赤ぶどうなのか白ぶどうなのかが素人目にもわかるようになるのは真夏ごろです。ぶどうの実に色が付いていく期間をベレーゾンと言い、ナパヴァレーのベレーゾンは萌芽と同様、ぶどう品種や、畑の場所によって異なる微小環境により、長い期間にわたって続きます。ナパヴァレーの1日の気温差は大きく、日中と夜間の差が16度から22度になることもあります。ナパヴァレーがワイン用ぶどうの栽培に理想的な場所である理由はいくつもありますが、この気温差もその一つです。日中の暖かさは果実の成熟と糖度の上昇を促し、涼しく、霧に包まれることも多い夜間はぶどうが酸味と爽やかさを維持するのを助けます。その結果、絶妙なバランスのワインが生まれます。

 

収穫

とうとうこの時がやってきました。一本一本丹精込めて手入れをすること半年、ぶどう畑は魔法の瞬間、収穫の時を迎えます。収穫はほとんどが手摘みで行なわれ、夜間に行なわれることも珍しくありません。果実の糖度を測る単位であるブリックスを計測し、味見をしたら次は複雑で多様なフェノール成分の成熟度を評価します。このフェノール成分が、ナパヴァレーのワインの風味と色合いとテクスチャー(口に含んだ時の感触)に幾層もの深みを加えます。さまざまなスタイルのワインが作られているナパヴァレーでは、通常収穫は8月初旬から始まります。まずはスパークリングワイン用のぶどうが収穫され、次に白のスティルワイン用のぶどうが収穫されます。赤ぶどう品種の収穫は10月の下旬まで続き、年によっては11月初旬にかかることもあります。収穫の遅いデザートワイン用のぶどうの収穫は12月まで続けられることもあります。世界に名だたるナパヴァレーのワインですが、ワイン用ぶどうの年間収穫量は、カリフォルニア全体のたった4%と非常に少量です。その一方で、ナパヴァレーのワインの総小売額は、カリフォルニアワイン全体の50%を占めます。

 

圧搾

世界最高のワイン作りを目指すナパヴァレーのワイン製造者たちは、ワインの製造に最先端技術を取り入れています。ぶどう畑で収穫されたぶどうを待ち受けるのはステンレス製の機械です。赤ワイン用のぶどうは除梗機にかけられ、出口からはぶどうの実だけが排出されます。ワイナリーによってはこの時点で光学選別機が用いられます。コンピュータ制御された監視装置が、厳しい仕様にもとづき特定の品質の果実のみを通過させます。その後ぶどうの実はそっと押し潰されてしかるべき発酵槽に移され、皮ごと発酵が行なわれます。白ワイン用のぶどうの場合は房ごと圧搾機にかけられそっと果汁が搾り取られると、皮は除いて発酵槽に移されます。

 

発酵

発酵は、酵母がぶどうの果汁に含まれる糖分に対して働きかけることにより、ぶどう果汁をワインに変える昔から変わらない工程です。ナパヴァレーでは、非常に多品種のぶどうが栽培されていることから、またワイン製造者たちが世界最高のワインを作ろうと意欲的であることから、多くの発酵技術があります。白ワインに関しては、シャドネは樽発酵が行われることが多く、複雑でクリーミーな味わいを生み出すためにマロラクティック発酵が行なわれます。ソーヴィニヨン・ブランをはじめとするその他の軽い白ぶどう品種は、ステンレス製のタンクに入れて低温で発酵させることにより、主体となる果実の香りときりっとした酸味を維持します。皮の薄い赤ぶどう品種のピノ・ノワールは通常、発酵前の数日間、ぶどうの果実を皮ごと低温で浸しておいて(低温浸漬)より多くの色素を抽出します。カベルネ・ソーヴィニヨンやシラー、プティ・ヴェルドなどのタンニンの多い赤ぶどう品種は、発酵後もしばらく皮ごと浸しておくことでタンニンが和らぎ、色の濃さと口に含んだときの重厚感が増します。

 

熟成

熟成期間中、ナパヴァレーのワイン製造者たちはさまざまな手法を駆使し、数か月から物によっては数年をかけて、ワインが風味を生み出していくのを助けます。ステンレス製のタンクを使用するか、フレンチ・オークまたはアメリカン・オークの樽を使用するか、樽のトースト・レベルはどれを選ぶか、個性の強い新しい樽と、使用済みの、より中立な性質の樽のバランスをどう取るか、そして卵形のコンクリート製タンクで熟成する革新的な手法の採用など、すべての決定が最終的なワインの風味に影響します。

 

 

瓶詰め

いつワインを瓶詰めするかは個々のワイン製造者のとても個人的な決定で、ヴィンテージやワインの特徴に大きく左右されます。リーズリングのような軽い白ワインであれば、発酵後数か月間タンクで安定させるだけでよく、あまり深い考えは必要とされないかもしれません。一方、樽熟成されたシャドネの場合、安定期を経て瓶詰めする前に、年間を通して樽の中のワインと澱の撹拌が行なわれます。赤ワインの場合には樽で18か月から24か月熟成させることも珍しくなく、その過程でワインに複雑な風味と香りが生まれます。樽熟成をいつ止めるのかは複数の要素によって判断され、ナパヴァレーのワイン製造者はそれぞれ独自の手法を用います。結局のところ、自由に使えるどんな技術や情報も、我々ナパヴァレーのワイン製造者の舌と、直感と、経験に取って代わることはできないのです。